漫才ビデオと共に
「ラルジャン(原題:金)」というフランス映画を観ました。
ロベール・ブレッソンという1901年生まれの監督の83年の作品。
映画を観始める前に、あらすじや評を読んで
「暗くて、退屈そう」と思ったんだけど、
すっとこどっこいっ!
めちゃめちゃ面白いっ!
72歳のおじーちゃんが撮ったとは思えない
みずみずしさと斬新さに溢れてます。
弥絵の好きな映画監督は
タルコフスキー、キューブリック
ヴィスコンティ、フェリーニ
ベルイマンだったのだけど、
ブレッソンも追加〜♪
こーんなに面白い映画なのに、
どうしてこんなにつまらない
映画評がひっついているのか、
怒りさえ覚えたわん。
ところでこの映画の原作はトルストイの「ニセ利札」。
トルストイといえば、
カタくて重くて善人のようなイメージもありますが
まったく違います。
欲望に翻弄されたり、快楽に浸って破滅していく人々を
ごくごく当たり前にありうるものとして認め(ここがすごい)、
葛藤や欺瞞、嫉妬、情け、愛情など、
人間の心のひだを浮き彫りにします。
で、この映画のあらすじ。
ひょんなことから偽札をつかまされた男が、
知らずに喫茶店で偽札を使って警察に逮捕される。
偽札をもらったカメラ屋に行っても
「あんたなんか知らん」の一点張りで、
無実なのに執行猶予つきの身の上に。
会社を首になって、犯罪に手を染め、
刑務所に入る彼。
その間に子どもは病気で死に、妻も彼の元から去る。
「もう誰一人、自分を待ってくれる人はいない」と憤りと哀しみに暮れる彼。
刑期を終え、出所した彼はその晩から、
泊まったホテルの従業員を殺害し、金を盗む。
翌日、銀行の前で出会った老婦人の後をつけ、
家に勝手に入り込み、老婦人の世話を受ける。
彼の殺人の話を聞いても、驚きもせず、
家族のために身を粉にして淡々と働く老婦人と
心を通わせた彼は、その夜、 老婦人含め一家惨殺。
バーで一杯酒を飲んだ彼は、
警察に殺人の話を告白し、逮捕されるのであった。
・・・とあらすじにすると、
暗くてつまんないように見えるけど、
映画は面白いぞぉー。
ほんとうはただの紙切れでしかない
金(と、偽札)に翻弄される人たちを
クールに描く中で、
破滅と魂の救済を突き詰めるのであります。
善悪を切り分ける基準が観ているうちに
あいまいなるのも面白い。
なにより面白いのは、映像のスタイルとシナリオ。
映画らしい映画であるハリウッドとは、
まったく異質な存在。
「創造とは0からやるもんだ」ってのが
監督のモットーだったらしく、
「映画らしい演出」は一切排除され、
シーンごとのつなぎ目が中途半端なところで起こり、
なもんで、次のシーンがどうなるか
さっぱり予想できない。
役者も小津安二郎の映画かっ!
と思うほど淡々としていてロボットのような
ぎこちない語り口。
「役者の演技は(映画的で)自然じゃない」という
理由で、 全員素人を起用したそうな。
恐ろしくストイックな作りだからこそ、
恐ろしいほど美しく、深いんです。
この人のほかの映画も見なくちゃ。
死ぬ前に「創世記」を作りたかったらしい
んだけど、見たかったなあ。
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