「とっておきのアメリカ小説12篇」
村上春樹・柴田元幸
畑中佳樹・斉藤英治・川本三郎訳
文藝春秋
「誕生日の子どもたち」
トルーマン・カポーティ 村上春樹訳
という短編集の新刊を読んでいると、
大変興味深いんだけど、
それぞれの短編の読後が「なんともはや」
って気が滅入ってやるせなくなるんです。
そんなわけで、交互に読もう!と思って、
「とっておきのアメリカ小説12篇」をゲット。
’88年に出た本だったけど、
今まで存在を知らなかった(^_^;
ああ、もったいない。
「モカシン電報」W. P. キンセラ/村上春樹
「三十四回の冬」ウィリアム・キトリッジ/ 村上春樹
「君の小説」ロナルド・スクニック /村上春樹
「サミュエル」グレイス・ペリー /村上春樹
「生きること」グレイス・ペリー/ 村上春樹
「荒廃地域」スチュアート・ダイベック/ 柴田元幸
「イン・ザ・ペニー・アーケード」スティーヴン・ミルハウザー/ 柴田元幸
「夢で責任が始まる」デルモア・シュウォーツ /畑中佳樹
「彼はコットンを植えない」J. F. パワーズ /畑中佳樹
「レイミー」ジェイン・アン・フィリップス /斎藤英治
「嵐の孤児」メアリー・モリス/ 斎藤英治
「ビッグ・ブロンド」ドロシー・パーカー/ 川本三郎
この訳者陣! なんて贅沢っ!
やっぱり、海外小説は訳が肝心。
でもって、パワーズやドロシー・パーカーなど、
おいしい作家がいて、わくわくっ!
知らない人もいっぱいいるっ!わくわくっ!
という、るんるんノリで、3つめまで読みました。
「三十四回目の冬」は、
とっても無名な小説家だそうだけど、
すんごくいい。
アメリカのしけた田舎町に住む兄弟の話。
ボクシングをやっていてやくざな雰囲気になった
遊び人の兄と、まじめでボクトツな弟。
美貌で明るく派手な兄の妻にほれた弟は、
妻を放って女遊びにうつつをぬかす兄に
パンチを食らわして、兄弟の縁を断絶。
その後、何年もたって自分も家庭を持ち
子どもが生まれようとしたとき、
兄が若い女に殺される。
連絡を受けたとき、実は過去、
自分の妻も兄貴の女だったと知る。
自暴自棄になった弟は・・・。
登場人物のキャラもいいけど、
特に最後の3行が
虚を突かれて、泣けるぅぅぅ!
物凄くさりげなくて、なにげな小説なんだけど、
そのなにげさを貫くところがすごい。
たった3行のために、
それまでの全ページがあるようにも思えて、
こんな終わり方をするんだぁー
と、感嘆までしました。
本が売れるときには、
「話題性」「新しさ」「インパクト」「珍しさ」などが
あり、フツー計算したり、狙ったりするものだけど、
そういうものとは無関係に、
人間の心情の動きを、なにげなくなにげなく綴るってのは、
そうそうできるもんじゃありません。
レイモンド・カヴァーが村上春樹に
「これいいよ」と紹介した小説家だそうです。
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