幻の名訳と呼ばれる
「年を歴た鰐の話」
レオポール・ショヴォ 山本夏彦訳 文芸春秋
が復刊されてました!!
この本の存在を知ったのは、去年のことでして、
友だちに「年を歴た鰐の話って読んだことある?」と聞かれ、
まったく知らなかったのであります。
面白そうだけど、まったく知らなかったって本があると、
メラメラと読んでみたい病が始まるんです。
ネットで調べたところ、戦前に出版された寓話集だとわかり、
稀本あつかい。そら、手に入らないわなあ・・・と、がっかり。
で、昨日、本屋で見つけて、小躍りしたのでありました。
読んでみて、これが予想以上にすこぶる面白かったのです!!
主人公はピラミッドが建てられた頃から生きているワニの長老。
自分で獲物がとれなくなり腹が減って仕方なかったから、
傍にいたひ孫を食べてしまい、「人でなし!」とののしられ、ワニの集団から追放されます。
ここの描写も、「まあ、血がつながってるんだから、自分の血肉にしてもねえ、
おかしな話じゃないわねえ」・・・と、一瞬思ってしまうくらい飄々淡々とした語り口。
山本夏彦の26歳のときの訳だそうですが、
スマートでシニカル。老成しているといえるほど味わい深く、読み度満点。
で、追放されて泳いでいると、
足が12本のタコの若い女性に出会い恋に落ちるのでした。
「彼女がいないと自分の人生は精彩に欠けてしまうけど、
でも食べたいなあ・・・」と、葛藤する日々。
ばら色の幸せに身を置きながら、
自己弁護と自己非難を繰り返し、毎日1本ずつ足を食べてしまうのでした。
そして最後には、ついに彼女を全部食べてしまい、苦い涙を流すのでした。
「彼は彼女を、ほんとうにうまいと思った。
けれども、食べ終わるや否や、にがい涙を流した。
それから、彼は退屈した。たった一人岩の上で。」
この3行を読んだとき、 笑いがこみ上げてきました。
そうか、ほんとうにうまいと思ったんだぁ〜! なんて官能的なんだろう!
でもって、両立し得ない完全に相反する欲求を2つ持つ場合、
自分の生存欲求が勝つんだなあ、としみじみ。
葛藤してるところがとても面白いので、ぜひご一読ください。
10分もあれば、読める短編です
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