「ピカソの名作、便器の彫刻に負ける」ってなニュースがありました。おや、デュシャンがピカソに勝ったのね。
「世界の芸術をリードする500人に、最もインパクトのある現代芸術の作品5点選んでもらったところ、便器の彫刻が1位になった。」
ってな話だけど、「好きな作品」とか「偉大な作品」ではなく、「インパクトのある作品」とくれば、「泉」が選ばれてもしょうがないか~。
この「泉」って作品、現代美術がコンセプチュアルな方向に転換した記念すべき作品です。正しくは「便器の彫刻」ではなく、ただの「便器」です。マルセル・デュシャンの「泉」は、既製品(レディメイド)の便器に自分のサインを入れて、これでどーだっ!と展示したもの。「彫刻」してません。ただの大量生産品です。ちなみに新品の便器でした。
オリジナリティというのが美術で重要視されたのは実はそんなに大昔じゃありません。中世以降の美術は、教会→教会が衰退した後は王室→王室が衰退した後は資本家がパトロンとなり、時の権力と密接に関わりながら栄えてきたわけですが(だからお金持ちがいなくなると大変なジャンルなのだ。日本はすんごいお金持ちが今いないからダメなのだ)、作家の名前が珍重されるようになるのは、ルネサンス以降。それまでは無名の職人がしこしこ作ってました。で、近代に入ってから「作家のオリジナリティ」と同時にそれを証明する「作家の署名」に価値が出まして。作品そのものの良し悪しよりも「だれのサインが入っているか?」の方に観客の目が行くようになったもんで、「あほちゃう?」ってなもんで、便器にサインしたのがデュシャン。大量生産品(コピー)もサインを入れれば個人の作品になるってわけで、一度やられちゃうと、二度とできない手法なんですが、これは物議をめっちゃかもし出して、決着つかないまま、かれこれ90年です。コピーVSオリジナル。デジタル時代にはとても面白いテーマです。
しっかし、90年前の作品が「最もインパクトのある作品」になるのも、さみしー気がする。。。がんばれ同時代!
11月に大阪の中之島にできた国立国際美術館は建物すべてが地下にあり、地上にはモニュメントだけがあります。何となく地下に降りていくのは、ダンジョンに入っていくような感じで楽しい美術館です。
オープニングの展覧会は「マルセル・デュシャンと20世紀美術展」、日本では20年ぶりというデュシャン展です。大変おもしろいですよ。
泉(噴水)のインパクトは時代を考えるとすごいものがありますね。ロシア革命の年にアメリカでこういう発表をしていくラジカルな先駆性が、ある意味でピカソを超えているのかも。
時代がデュシャンを再認識しているのだと思います。
投稿情報: hirota | 2004-12-04 13:11
この作品、「この作品に隠された意味とは云々」と小難しい理屈をこねるのではなく、
「あ、そうかその手があったのか、こりゃ一本とられたな」と笑い飛ばすものなんじゃないでしょうか。
この作品を見るたびにそう思います。
アバンギャルド系では、ジョン・ケイジの「4分33秒」という音楽も謎ですが。
投稿情報: KAMON | 2004-12-06 01:27