映画本編よりも映画の制作過程を追ったドキュメンタリーの方がおもしろかった、とてつもないドキュメンタリーを観ました。
「ラマン/愛人 ドキュメンタリー」。
映画本編は、フランスの故マルグリット・デュラスの自伝的小説「ラマン/愛人」が原作。1920年代ベトナム(当時はフランス領)に住む貧しい白人の少女が、大金持ちの華僑の30歳過ぎの青年の愛人となり云々、というお話。ベトナム、フランス、中国の風俗・文化、白人と黄色人種、富んだ人と貧しい人など、さまざまなギャップや価値観の衝突に葛藤するところがおもしろいし、俳優のデリケートな演技がよかったです。まあ、ふつうの恋愛映画といえば、そうなんですけど。監督は「薔薇の名前」や「セブン・イヤーズ・イン・チベット」の監督でもある、 ジャン=ジャック・アノーです。
で、ドキュメンタリー。こちらは監督本人が、映画の企画開始から撮影終了までを紹介したもの。なにげに観ていた映画に、そんな裏話があったとは!とびっくり仰天の内容でした。
まず、1920年代のベトナムの物や文化は、石材で建造された建築物以外、残ってない(戦争があったからなあ)・・・ので、すべて現地に住む老人たちの話を聞いて再現したって話。当時の衣食住・・・自転車から何千着という服も、すべて新たに作ったもので、街全体をそっくり作り上げるなんて、まるで神様みたいな話だなあと唖然。制作を請け負った現地の会社は儲かっただろうなあ。一大事業どころの規模じゃないです。オリンピック開催国って感じ?
大きいもので言えば、車や汽船も残ってないので、世界中から探して、汽船なんてロシアの氷の海の底に沈んでいるものを引き上げるか否かまで検討したそうな。当時の冠婚葬祭儀式も残ってないので、こちらも昔話を聞いて再現。話をしてくれた老人たちは、いわゆる当時のインテリなので、「物が残っていないからこの映画が、ベトナムの当時を語る唯一のものになる。間違ったことを世界に伝えてはいけない。正確に。」と釘を刺したらしく、徹底的にリアルに再現しています。映画本編は、なにげに観ていたんだけど、どれも作り物だったとは気付かなかったです。見事にだまされました。
そして、キャスティング。主演女優はオーディション。数万人の応募で監督も7000人以上に会ったそうなんだけど、判断基準は「鳥肌が立つか」。「いい女優はひとめ観ればわかる。その瞬間、鳥肌が立つかどうかだ」そうな。ものすごくリアルに緻密に映画を構築していく監督なのに、根っこはカンなんだなあ。そんなの ジャン=ジャック・アノーにしかできない仕事だわ。主演男優もハリウッド、イギリス、フランス、香港、京劇・・・と探し回り、ようやく見つけたとのこと(ベルトルッチ監督が推薦したというウワサもあるけど)。
「コマの端から端まで責任を持つのが僕の仕事」・・・さすが映画監督になる前は、CMの監督をやっていただけのことはあって、たった1秒しか映らない瑣末なものにさえ、ものすごい神経を使って作りこんでました。たとえば、船を映しているときに、川に大きな草がぽこぽこ流れているんだけど、その草の下では人が立ち泳ぎして、草の動きをコントロールしてました。人力だー。
また、小説には目には見えないイメージを語っているところがあるのだけど(それが文学だから)、そこをいかに映像化するかで、ものすごく考えるわけ。この文章はこう解釈してこういう映像にしました、というのも丁寧に説明されていて、勉強になりました。
にしても、おそろしい、おそろしい、このドキュメンタリーにヤラレタのは、 ジャン=ジャック・アノー監督の映画に対する情熱と完璧を目指すその執念でした。なぜにそこまで妥協せずに突き詰められるのか? でもって、映画ってお金がかかると思っていたけど、凄まじいですね。これ観てオールCGの方が経済的だと思ったけど、「見事にだまされた」とは思わないだろうから、実写ってやっぱりすごいんだなあ。
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