PLUTO プルートゥ 浦沢直樹
久々に泣けた!これはかなわんです。たまりません。ストーリーはもちろんのこと、1カット、コマ割、セリフの1つ1つが完璧!うますぎるぅぅ! コンセプト&絵&演出の三位一体!
鉄腕アトムの「史上最大のロボット」のリメイク。とはいえ、アトムを主人公とせず、ロボット刑事ゲジヒトを主人公に描かれたマンガ。舞台は人間とロボットが共生し始めた近未来。見るからにロボットとわかる旧式と、なんら人間と変わらない最新式が入り混じり、人間生活を模すことで次第に意志や感情を持つに至るプロセスも丁寧に描かれてて、その辺の混沌ぶりがリアル。今までのSFにはなかったっす。結局、人間とロボットの違いはなんなんだ?ってことなのよね。ないわけよ。
しょっぱなから緊迫感に満ち溢れるストーリー。謎の連続殺人。殺されたロボットのメモリーチップに残された不可思議な人影、ゲジヒトが繰り返し見る奇妙な夢・・・事件を追ううちに、ゲジヒトはターゲットが自分も含めた世界最強の6体のロボットだと推測し、殺人を未然に防ごうとロボットたちを訪問するのだが・・・。
原作だと各ロボットたちの話は、5ページとか超短いストーリーで終わってしまうんだけど、浦沢版では20倍以上の勢いで膨らんでます。んでもって、ドライな中にキラリと光る人間性が表出する手塚マンガと比較すると、やりすぎぃ&説明しすぎぃ~と思うシーン多々あれど、まんまとやられちゃうんです。心理描写の王道中の王道。例えば夏目漱石の小説で、死んだ生徒の母親が師に御礼を言いに来るシーン。気丈に振舞う母親のひざに置かれた手をふと見ると、顔は笑顔なのに手だけが小刻みに震えていた・・・みたいなのがいっぱい。ま、今の若い人に「行間を読め」なんていっても伝わらないだろうから、やりすぎで正解なのかも。そこまでしても、多くの人に手塚治の意思と浦沢直樹の思いを伝えたかったんだろうなあ。
オススメは第二話「ノース2号」。秀逸(号泣)。ラスト3ページの描写の神々しいほどに美しいこと!(号泣)。最後のセリフもすさまじくイイのよねえ。第一巻はこれを読めただけでもありがたしっ! 紹介しちゃうとネタバレになっちゃうから、絶対書かないっ。読んでくだされ!
そうそう、1巻の最後の1ページでアトム登場! レインコートにランドセル。見た目、フツーのかわいい男の子。頭もとんがってないのが意外だったけど、かなり合ってる。これからの展開が楽しみです♪
楽しみといえば、弥絵が「史上最大のロボット」の中で一番好きだったロボットは、孤児院で子どもたちの面倒をみてる優しくて美しいヤツでして。孤児院がプルートゥに襲われたとき、逃げ遅れた子どもを守るため死んでしまうの。助けた子どもの両脇に、子どもを抱きかかえていた彼の腕だけがちぎれて残されていて、その腕の中で子どもがわんわん泣いてるのが脳裏に焼きついてる。あれはどうリメイクされるのかなあ。
~下記、長くなったのでおまけにしました~
【原作について】
「プルートゥ」は鉄腕アトムの「史上最大のロボット」に出てくるロボットの名前。元を正せば、ギリシャ・ローマ神話に登場する冥府の王の名前。最強を証明することを命じられ、世界最強のロボットたちを破壊していくんだけど、アトムとウランとの出会いによって、最後には改心して人を守るために自己犠牲でもって死んでいく・・・というお話。鉄腕アトムの中でも人気が高い作品だそうです。ちなみに弥絵は「イワンのバカ」が好き(トルストイの小説にも同じタイトルがありますね♪)。
【浦沢版プルートゥについて】
読むまでは、2003年がアトム誕生の年だからって、浦沢までやらなくていいんじゃない?って思ったワケ。でも、読んでみたら、未来に、そして次世代に何を伝え残すか?ってことについて、しみじみ考えさせられてしまいました。流行の懐古主義じゃなくて、人間はなにを忘れちゃいけないのか、次にどうするのか?という問いに対するメッセージが脈々と流れてます。そうそう、ヒューマニズムというのは死語だけど、ふっと思い出したりしました。
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★豆知識:ヒューマニズム★
ヒューマニズムとは、ごく一般的には,人間の本性 (人間性) とさまざまな人間的事象に関心と愛情を抱き,人間の特殊性に固有の価値と尊厳を認め,非人間的なものに対してそれを擁護しようとする態度ないし志向を指す。様々な問題と限界とを含んだ立場なのであり、それを自覚しつつ,根拠のあいまいさに耐えて,繊細な配慮と強固な意志と知性によって守り抜くことが課せられている。
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