実家の本棚を物色してたら、
「授業の成立」林竹二 一莖書房
って本を発見。 最近は、生徒が授業中に私語をするのはもちろん、うろうろ歩き回って「授業」が成立しないって話もよく聞くもんでどんなもんかいな、と手にとりました。
宮城教育大学の学長だった著者が、小学校で研究授業を行い、それをエッセイ風に発表している30年前の本です。もう30年も昔の小学校の授業の話なので、時代遅れかと思いきや、 はちゃめちゃ感動しました。この先生、授業が終わると感想を子どもに書いてもらってたんですが、その感想が感涙もの!!
【小4・男子の感想】
きょうの四時間目のへんてこなれきしのべんきょうか、りかのべんきょうかわからないべんきょうをして、はじめてべんきょうのおもしろさがわかりました。いままで小学校の1年生から四年生まで、人間とはなにか、どおゆう物であるか、そして、どう物と、どうちがうのか、人間のにの字も、しらべたことがありません。先生のお話を聞いていると、自分のこともわからないようじゃだめだと、頭にうかんできます。
いままでのべんきょうは、てっていてきにしらべたことが、ありません。ただ、答えをだしたら、それを、おぼえて、りゆうを、かんたんに、考えて、終わりです。だいたい一もんに15分とかかりません。先生のばあいは、こまかくてっていてきに、りゆうも、こまかく、しらべて、終わりで、一もんで、45分いじょうかかります。いままでのぼくのべんきょうにくらべるとずいぶんちがいます。
【小5・女子の感想】
私はこの「人間とは何か」を勉強して感じたことは、ふつうの算数や国語などとは違うし、算数のように答えで終わってしまうんではなく、考えれば考えるほど問題が深くなってゆく。私は勉強していて、どこで終わるか心配になってきたほどだ。私は一つのことをもっともっと、深くなっていく考え方がこんなにたのしいものかとびっくりした。
【小4・女子の感想】
林先生が教室に入ってきたとき、はたしは、どきどきした。人間とはなにかということをおそはった。人間はかんがえる、はたらく、つくる。人間しかやれないと思う。ちんぽ(ぱ)んじいやいぬなどは、なにかおやるちからは、少しあると思う。林先生の話しかたは、ためになった。もうすこしききたいこともあった。いぬとさるのことも勉強した。ておつかうことができないとおっしゃった。いぬだのを、かいものにやらせると、はでかってくる、といった。もしわたしがさされたらなんていってはなせばいいのかはからない。もっとききたいこともあった。いちにちじゅうたたされたかもしれないと思った。林先生の話しがためになった。人間とはなにかもっとききたいこともあった。
【小4・男子の感想】
ビーバーはあたまがよくてみずがながれているのを、いたでためてじぶんたちでいえをつくって、いえがわからないように、みずの中にまどをつくっている。人間よりもあたまがいいなと思ったけど、林先生のおはなしをきいていくうちに、人間がえらいということが、わかった。ビーバーは200年も千年たっても同じことしかできない。人間はくふうしてよいものをたくさんつくってべんりになっている。林先生は声が小さいのできこうとがんばりました。
すこしむずかしかった。でもうれしかった。
1番目の男の子は宮城大学付属小学校の子。2番目の女の子は秋田の山奥の小学校の子。3番目の女の子はオール1の意欲がないとされていた子で担任も困っていたそーなんですが、 誤字の多い感想文の中で、なんどもなんども繰り返し「もっとききたいことがあった」と言ってるのに感心しました。子どもはだれしもが「知りたい」気持ちを持ってるに違いない。うむ。4番目の男の子は特殊学級の子で、最後の「でもうれしかった」の一言が素晴らしいなと思いました。
わかることはうれしい・・・それを知ってもらうのはほんとに大変です。 100点をとってうれしいとか、先生や親にほめられてうれしいとかは簡単に体験してもらえるし、わかりやすいんだけど、 「わかることはうれしいことだ」ってのはどう伝えていいか難しい・・・と、ぐもぐもしてます。
そんなこんなで、この先生はいったいどういう授業をしてたんだろう??と読み解いていきますと、どうやら、ソクラテスの質問形式のようなんす。 ポイントは正解がない問いをテーマにすること。
「人間とはなにか?」をビーバーの巣作りの写真を見せてスタートし、 子どもが質問に答えると、その答えに対して質問する・・・ってのを繰り返す。
「子どもが意見を出したら、あらゆる角度から吟味することによってその意見を子どもが放棄するところまで追い詰める。そこで大事なことは子ども自身が腹の底から自分のその意見をとうてい維持できないと納得する・・・そこまで徹底的に追い詰めていくことです」
というように、 ひとことでいえば、言葉は悪いですが「つるし上げ」って感じです。ところが面白いもので、ずっと質問し続けられることを子どもは「一緒に考えてくれる」「答えるまで待ってくれる」「やさしい」と感じるみたいっす。
この本、すばらしく感動したんですけど、でもって、こういう先生がいまもいれば面白いのになあと思いました。「多様性」に対して、今の教育が目指しているものは 「個別化」です。それはレベル別×ニーズ(ほぼ親のニーズ)別に選別し、それぞれのグループ別に授業するってなもんで、上記の優等生も劣等生も一緒に授業するよーな話とは180度違います。グループ別にした方がたいへん効率がいいことはわかってるけど、1問を45分も考えさせるよーなグループがあってもいいかも〜としみじみ。
今、この本の教育を実現するには、ネックが多すぎなのが無念。
(1)この授業はこの先生にしかできないので方法として継承ができない。
(2)ほかの先生にできたとしても、出来る先生はとても少ないから人手不足。
(3)1問に45分かける(贅沢)ことをやっていると、教科書が終わらない。
(4)通常の定期テストや入試で点数をとるには直接的に役に立たない。
(5)この授業について親のニーズが極めて少ないと思われるので、親の理解を得にくい。
私塾ででもこういうのがあると面白いんですがねえ。。。